2005-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ブラウン・バニー

ヴィンセント・ギャロは『ブラウン・バニー』によって新たなる映像の極北を走破してみせた。モーターサイクルの250CCフォーミュラ−レーサーが、忘れられない過去の愛を探しにアメリカ大陸横断の旅に出る。こうした絶望的な設定のなか、ギャロに許されてい…

雨、向田邦子、小津安二郎

日暮れ時に夕立ちが降る。夕立ちは大粒の雨が身体に垂直に切り込んでくることが多く、確かな重みのある雨水の冷たさが印象的である。人工的にコントロールされない水というものの生々しさをふいに感じ、風や雨や寒さに対して常に無防備であった子供時代を思…

10話

アッバス・キアロスタミの新作は「対話仕立てのインタビュ−スタイル」とでも言えそうな映画の新しい形式を作り上げている。一人の女性がテヘランの街を自動車で走り続ける。助手席には、母親の新しい恋人に馴染めない息子が、信心深い老女が、失恋に取り乱す…

家宝

94歳になった今も、年一本という驚異的なペースで新作を発表し続けるポルトガルの巨匠、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の新作映画。莫大な遺産を相続した一人の青年の前に二人の女が現れる。典型的な悪女、ヴァネッサと純真な女性、カミ−ラ。周囲の計算通り…

絵画の見かた

『絵画の見かた』ケネス・クラーク(著)高階秀爾(訳)ケネス・クラークは生前、ロンドンのナショナルギャラリーの館長を務めていたことがあった。美術館は氏の著書で扱われる作品のように、あるコンテクストを元に集められた質の高い絵画群が、整然と並べ…

鏡の女たち

http://www.groove.jp/movies/mirror/冒頭からしてただごとではない。門から出て来た一人の女性が白い日傘で顔を隠し、バス停への通りを行く。それを一台の車が静かに追うサスペンス。巧妙な寄りと引きが畳み込むように観客を映画へと引き込んでゆく。そして…

宇野亜喜良展

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60年代から70年代にかけて一世を風靡したイラストレーター、宇野亜喜良の回顧展。2つの会場を使って初期のポスターから近年盛んに手掛ける舞台美術までを通覧する。繊細な筆致で描かれた線や、中間色が鮮やかな独特の色彩、鋭敏な構成感覚に貫かれたコラ…

ファブリカ展

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コミュニケーション・リサーチセンターと銘打って、ベネトンが世界中の25才以下のアーティストを集めて次世代のヴィジュアルアイディアを探るために設立されたデザイン機関「ファブリカ」。この展覧会は、その10年間に渡るワークショップの集大成。生傷…

束芋展

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今年3月の東京オペラシティーアートギャラリー(+エイヤ=リーサ・アハティラ)、7月からのKPOキリンプラザ大坂(+できやよい)、ハラミュージアムアークでの作品発表に続いて、ギャラリー小柳でも束芋の個展が行われている。(銀座のギャラリーでは映像…

臨床読書日記

『臨床読書日記』養老孟司(著)今書名を見ると、どこかのブログのタイトルのようにも見えるが、90年代に破竹の勢いでジャーナリズムを賑わしていた当時の、養老孟司の書評集である。養老氏によると、タイトルの「臨床」とは、「個々の患者さん*1に教科書的…

米田知子展

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資生堂ギャラリーで開かれている、ロンドン在住の写真家、米田知子の個展。近年、現代美術の文脈で語られることの多い日本の写真家の中でも米田は杉本博司などと共に、方法意識の強い作家の一人である。取り壊される寸前の家の、古びたり、ヒーターの熱でう…

2005アートフェア東京

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http://www.artfairtokyo.com/2005年の8月に有楽町の東京国際フォーラムで開催された、アートフェア東京にも米田知子の作品が出品されていた。作品は、戦争跡地を撮影した風景シリーズが主であったと記憶しているが、新たな感慨はない。 それよりも、多くの…

2005 ADC展

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http://www.recruit.co.jp/GG/exhibition/2005/g8_0507.html先日たまたま、2005年度のADC展を見る機会があった。例年に比べると、質が高い印象を受けたのは、デザインと広告のバランスが取れているからだろう。それを象徴してか、今年はサントリーの伊右衛門…

2003 ADC展

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1952年に結成され現在86名の会員を擁する、東京アートディレクターズクラブ。『ADC年鑑』の出版に先立って、例年ADC展が開催されている。この展覧会を見れば、消費社会にひそむ嘘と病理が走馬灯のごとく理解できる。崇高さと消費を結び付ける嘘(無印…

東京メトロ、走行中に扉開く

http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20050816STXKC048316082005.html午前8時17分頃ということは、満員電車であった可能性が高い。 窓際には乗らないこと。以前大澤真幸が、社会史が阪神大震災などの偶発事故を内面化してしまい、まるで偶然起きた事故が必…

ANDY WARHOL,HIS WORKS,IDEA&PROCESS展

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アンディ・ウォ−ホルの故郷、米国のピッツバーグにあるアンディ・ウォ−ホルミュージアムのコレクションで構成される回顧展が開かれている。(コーディネーター 河内タカ、アートディレクション グルーヴィジョンズ)ウォ−ホル作品のベースとなるポラロイド写…

ゴダールの新作、『アワーミュージック』

ゴダールの新作、『アワーミュージック』は切り返しショットを通して、ユダヤとイスラムの非対称性を明確にし、対立の構図を浮き彫りにするような映画だそうだ。ゴダールは、昔とった態度を変化させて、パゾリーニの映画を再評価しているようだが、それはこ…

イスラエル、ガザ撤退開始

イスラエルの同地からの撤退は、67年の第3次中東戦争での占領以来38年ぶり。 国際社会は、パレスチナの穏健派、アッバス議長を支持。http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt15/20050815SSXKB001315082005.html

田中一光回顧展

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突然の急逝が惜しまれる田中一光の大規模な回顧展が、東京都現代美術館で開催された。アートの枠組みが急速に再編される現在、グラフィックデザインも徐々に同時代美術の流れに接木されつつあるようだ。500点にものぼる展示作品を一望すると、初期の秀作…

エルミタージュ幻想

浮遊するキャメラは絶えず世界を写す。一切の中断や選り好みもなく、案内役の男に誘われるがままにエルミタージュ館内をうろつき回る。そこで体感したものは、ちょっとした仕掛けで崩れ去る主体の脆弱さだった。90分ワンカットという触れ込み通り、キャメ…

ダニエル・リベスキンド展

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巨大な空間内に、真っ白な建築が姿を現す。壁面や床には黒一色で記号が張り 巡らされている。そこに、ある時は虐殺されたユダヤ人の名前の、またある時は シェーンベルグの未完のオペラの痕跡をたどって行くと、いつしか身体全体が、 抽象化され、音楽にまで…

小泉自民党の破壊的戦略

小泉が郵政民営化法案に反対票を投じた勢力に、公認外しの強行手段を講じている。小泉の強さとこれまでの政治家との違いは、自民党を絶対視しない点にある。組織を守ることで自己が破壊され、組織を破壊することで自己が保存される、というパラドックス。 民…

個展にて

一瞬のインパクトや、わかりやすい個性を求める声相次ぐ。来日したグリーンバーグが、ピカソもマティスもない日本に、モダニズムが起こり得るはずがないと発言したことが脳裏に浮かぶ。 先日偶然に展覧会を拝見した方から、達筆な残暑見舞いを兼ねた礼状届く…

郵政民営化法案否決

郵政民営化法案が参院で否決された。小泉・竹中コンビの進める郵貯の外資への売り渡しを、反対派が自身の政治生命を賭けて死守した形となった。アメリカには国家戦略というものがあり、日本にはそれがない。アメリカは国家戦略を理念のレベルで押し進め、日…

洗練はアートの死

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フィンランド出身の実力派女性アーティスト、エイヤ=リーサ・アハティラ(1959-)の日本初個展(2000年第一回ヴィンセント賞受賞)。中世のトリプティクを思わせる、精密に設計された3つのスクリーンに、映画の制作手法(台本、カット割り、キャメ…

ルーレット上で回される「国民の権利」

法務省は、不起訴になった刑事事件の供述調書を開示する方針を固め、全国の検察庁に通知した。犯罪被害者の要求に配慮して、開示を決定した模様だが、これにより、今後個人のプライバシーは重大なダメージを与えられることになるだろう。 これまで国民は、裁…