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帝国の構造 柄谷行人著

旧来のマルクス主義者のように近代以後の帝国主義を単に批判するのでもなく、ネグリ=ハートのように世界資本主義の果てに見出される非中心化された帝国概念を抽象的に構想するのでもない。本書で柄谷が取った戦略は、古代から近世に至るまで、世界各地にお…

『ART CRITIQUE n.03 』収集の対談を、Book Newsでご紹介頂きました。http://www.n11books.com/archives/26298678.html

猫―加藤楸邨句集 (ふらんす堂文庫)より、4句選ぶ。 風 邪 惹 き の 猫 の 寝 息 の か な し け れ 捨 て 猫 に 別 れ い そ げ ば 蛍 草 元 日 や 古 玄 関 に 猫 の 友 猫 は い ま 目 と な り き つ て 十 三 夜

『切りとれ、あの祈る手を』佐々木中著(河出書房新社)

文体は苦手だが、内容は面白かった。この本については、多くの識者が書評を書いているが、誰も言及していないかに見える部分で気になる箇所がある。それは、決定的なテキストは、一旦失われ(忘却され)た後に、再発見されるということである。この本で紹介…

見えるようにしたもの

ドストエフスキーにとって大事なのは心理学だった。つまり彼は人間の内なる犯罪者を露にしてみせた。ベンヤミン 「ブレヒトの『三文小説』」 浅井健二郎訳 ドストエフスキーが露にした人間の心理は、彼の小説手法と密接な関わりを持っている。複数の登場人物…

『赤めだか』立川談春著

立川談春著『赤めだか』を読んだ。私の中で青春記と言えば、和田誠の『銀座界隈ドキドキの日々』や明本歌子の『コズミック・ファミリー アクエリアスの夢を生きる女』などが重要だが、談春の本もこれらに匹敵するほどに面白い。引き込まれた。良い青春記は、…

和泉式部日記

雨うち降りてつれづれなるに、女は雲間なきながめに、世の中を「いかになりぬるならむ」とつきせずながめて、「すきごとする人あれど、ただ今はともかくも思はぬ。世の人はさまざま言ふべかめれど、身のあらばこそ」とのみ思ひて過ぐす。宮より、「雨のつれ…

脱主体的表現の二様態

リチャード・ブローティガンの小説、『西瓜糖の日々』において、世界は西瓜糖で満たされている。周囲に西瓜畑があるという記述はあるものの、西瓜糖が西瓜に由来しているのかどうかについての説明はない。iDEATH(地名)の人々は、この有機物が解体した後で…

子規-蕪村と漱石

正岡子規によれば、蕪村が自身の俳句において、漢語や古語を多用したことは、作品を複雑化させるための意識的な選択だった。芭蕉の句にも、蕪村的な実験が無かったとは言えないが、次第に古池の句*1に代表される平明さへと収斂してゆくし、芭蕉以後、幾人か…

漱石『こころ』

漱石の『こころ』を、はじめて読んだのは、高校の国語の授業で、夏休みの課題として指定された時だった。それまで、『猫』や『坊っちゃん』など、底抜けの明るさやユーモアを爆発させたものや、中期の三部作くらいしか知らなかったので、『こころ』が持つ重…

絵画の見かた

『絵画の見かた』ケネス・クラーク(著)高階秀爾(訳)ケネス・クラークは生前、ロンドンのナショナルギャラリーの館長を務めていたことがあった。美術館は氏の著書で扱われる作品のように、あるコンテクストを元に集められた質の高い絵画群が、整然と並べ…

臨床読書日記

『臨床読書日記』養老孟司(著)今書名を見ると、どこかのブログのタイトルのようにも見えるが、90年代に破竹の勢いでジャーナリズムを賑わしていた当時の、養老孟司の書評集である。養老氏によると、タイトルの「臨床」とは、「個々の患者さん*1に教科書的…