宇野亜喜良展

60年代から70年代にかけて一世を風靡したイラストレーター、宇野亜喜良の回顧展。2つの会場を使って初期のポスターから近年盛んに手掛ける舞台美術までを通覧する。繊細な筆致で描かれた線や、中間色が鮮やかな独特の色彩、鋭敏な構成感覚に貫かれたコラージュの妙は強い個性とインパクトを持っており、いぶし銀の魅力を放っている。更に、原画を見ると良くわかるのだが宇野はイラストレーターの中では珍しくマチエール感覚に秀でており、原画の美しい表面が印刷によってどのように表現されているかを確かめることができるのも、楽しい点だ。

特に近年の宇野のイラストレーションを見ると、写真や泰西名画や映画のスチールを元に描かれていることが多い。一時期のピカビアの影響を受けて、イメージのイメージを描いていると思われるが、こうした方向性に疑問を感じる。他のイラストレーターにも共通することだが、具象物を描いていながらそれが現実の写生を経ていないために、表現が内側へと滞留し、外側へ開いていかないのだ。こうした表現は、宇野独特の世界を愛玩する人以外には届かないもどかしさ、不毛さを孕んでいる。

第一会場に、女性の身体に直接絵を描き、肌が動くとその絵が艶かしい表情をもって動き出すように工夫された60年代の映像作品があるが、イラストレーションの前衛的な取り組みとして面白い。このような積極性は若いイラストレーターも見習うべきだろう。また、宇野はかつて寺山修司澁澤龍彦らと多くの仕事をしているが、60年代に花開いた前衛演劇などの分野で、彼らが共同でどのようなイメージを作りあげたかを知る上でもこの展覧会は貴重なドキュメントを提供してくれる。

『MONO AQUIRAX-宇野亜喜良モノクローム作品集』宇野亜喜良(著)