ルーレット上で回される「国民の権利」

法務省は、不起訴になった刑事事件の供述調書を開示する方針を固め、全国の検察庁に通知した。犯罪被害者の要求に配慮して、開示を決定した模様だが、これにより、今後個人のプライバシーは重大なダメージを与えられることになるだろう。 

これまで国民は、裁判などの手続きを通して、起訴が確定した場合にだけ、国家権力との関係において、個人の主体性を社会化することを余儀なくされてきたわけだが、この決定により、主体が故意に社会性を帯びる上での境界線が消失する。理論上は誰でもが、個人情報の一方的な開示という暴力に晒される可能性が出てくるのだ。

もはや、誰もが匿名の存在として生きることを許されず、主体は全て事件の中におかれ、可能性の束として処理されてゆくことになる。今度の決定は、司法が国民を裁くことにおける制度上の脆弱性を示している。これは国が正統性を保持しつつ、法的決定を下す機能を拒否したとも受け取れる。極論をすれば、有罪も無罪も確率の問題にすぎないということだ。

最低でも、検察庁は調書を開示される個人に対して了解を求めることとし、個人は拒否権を発動できるような制度上の対策が必要だ。

JUNE 8, 2004