2003 ADC展

1952年に結成され現在86名の会員を擁する、東京アートディレクターズクラブ。『ADC年鑑』の出版に先立って、例年ADC展が開催されている。この展覧会を見れば、消費社会にひそむ嘘と病理が走馬灯のごとく理解できる。崇高さと消費を結び付ける嘘(無印良品)、幼稚なキャラクターを作り続ける病(大貫卓也)、環境への想像力を欠いた病理(D-BROSの詰め替え様シャンプーのパッケージと同素材で作られた花瓶)、大量生産、大量消費肯定の嘘(ユニクロのTV-CM)など、ここには社会の生産様式の縮図があり、その問題点が視覚的に抽出されている。社会学的分析の対象には事欠かない。

ADC賞は、会員によって受賞作(会員作品も含む)が選ばれる。広告という社会的色彩の強い分野でありながら、どこかの芸術団体のような閉鎖性は問題だ。このため、代りばえのしないK2のポスターや、パナソニックの広告にまでトンパ文字を使い始めた浅葉克己の作品がノミネートされるという間違いが起こる。受賞作はどれも似たコンポジション、今年の傾向は白バックでプロダクツ志向だ。流行を見据えながら、会員に気に入られそうなレイアウトを体得する。このような狭き門に全国から9000点近い応募がある。これを倒錯と言わずして何と言おう。

とはいえ、まったく収穫がなかった訳ではない。戸田正寿が制作した写真集『HEIAN』は、写真によって伊勢(神宮)的な日本の美学を鋭利に切り取っており、「日本的なもの」の視覚的側面をそれが瓦解してしまう程の強度でラディカルに構成している。これは、解釈によっては極めて両義的で危険な仕事だが、自身の資質や置かれた立場の中で、次なる一歩を踏み出そうとする強い意欲が感じられた。(受賞作に選ばれなかったのが謎である。)精神的な冒険を恐れないこと、状況に質的変化をもたらす意志を持つこと。アートディレクターに必要なことは、こうしたマージナルな思考を持ち続けることではないだろうか。

http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/gki/g206/g206ka.html

ADC年鑑2003

ADC年鑑2003