木々の繋がり

 確か、現代美術館の「パラレルワールド」で観たと記憶しているのだが、樹木を土から掘り出して逆さに植え直したものを写真に撮った作品があった。自然を利用した反自然、自然を飼い馴らす手段の誤用。樹木はその上下によって機能は異なるが、どちらも形態は良く似ている。大概は先端に向かうに従って放射状に広がっており、効率的にエネルギーを取得することが出来るようになっている。植物の根も確かに複雑だが、地上に出た部分も負けてはいない。隣接する木々と争うように枝葉を伸ばし、互いに絡ませている。地中からは強靭な蔦が幹を伝って木の先端へと伸び、複数の木々との間に勝手に複雑なネットワークを張り巡らせてしまう。枝葉や蔦に隠れるようにして、無数の小さな虫が住まい、鳥がやってくる。そこでは、個々の生体という単位を超えて自律した生態系のネットーワークが、個々の屍を乗り越え繁茂し続けているのである。住民がどれだけ原始的な生活を送っていようと、壁画が描かれるための壁面があるような場所はすでに芸術のための文明的な場が開かれているというべきである。芸術の中に、社会さえをも超えてゆく自律性を主張するのであれば、ジャングルの中で描かれる絵画こそがその本懐であろう。

 草木にまみれて家に戻ると、服の上に茶色の尻尾のある小さな青虫が這っているのを見つけた。観察していると、青虫はまず身体の最後尾を持ち上げて前に進ませ、それによって屈曲した身体を前方に伸ばす運動の力を借りて、全ての足を順次前方へと繰り出して進んでゆくようだ。身体の大きさに比して、足の粘着力は強く、服から容易には外すことができない。外に出て、千切った木の葉に乗り移らせて、その葉から樹木へと更に乗り移らせた*1。八月のある夜に、商店のガラスに激突し、転倒・気絶しているカブトムシを救助したときに、久しぶりに生きたカブトムシを触ったが、やはり足の力は強力だった。

*1: 服地の上を這っている時よりも、葉の上にいる時のほうが嬉しそうだ。