中西夏之新作展 松涛美術館

 渋谷区立松涛美術館中西夏之新作展。1997年に東京都現代美術館で観た個展では、キャンバスの矩形を締め付けるような弓形のモチーフや、長い柄のついた筆によって描かれた×状の息の長い筆触の連なりが、画面に孔を穿つような鋭さを見せていたのに対して、今回発表された新作は非常におとなしい印象だ。緩やかに引かれた木炭による下図が、それぞれのタッチを統合してゆくための触媒となっているような絵作りや、下地とその上に置かれる絵具との関係に対する繊細な感受性が、抽象的に把握された絵画面についての画家独特の思考を組み上げていることは理解できる。しかし、以前に比べてボソボソとしたタッチや、より装飾的に見えるストロークの運動を見ると、絵画を組み上げるための論理が、前提としての絵画を維持するための保守的な論理に転化してはいないかと気になった。ただ、穏健な絵作りの中にも未だ画家としての狂狷さが濃厚に感じられ、今後の展開は不知端倪と言うべきだろう。今後も作品を見続けたいと思う。会場の最後にデッサンが纏めて展示されており、とても参考になった。解説によると、それらは制作前に描かれるだけでなく、制作の興奮を静かに冷ますために、制作後にも描かれるらしい。ユニークな考え方であるし、粘り強く構成される画面を裏付ける話だと思う。