ベルリンの壁の絵

 雨の日は、空気中の瘴気が全て洗い流されているような感じがして、外を歩いていても気持ちが良い。沢山の水を浴びて、植物も喜んでいる。夜の暗闇の向こうからでも、それは確かな気配として伝わってくる。このような日であれば、Singin' in the Rainを唄うジーン・ケリーの気持ちも理解できそうだ。

 ギャラリーブリキ星に一点だけかかっていた絵が面白かった。作者の名前までは詳しく聞かなかったが*1、ドイツの画家で(旧東か西かも失念した)、ベルリンの壁が崩壊する前に描かれた風景画ということだった。風景と言っても、描かれているのは帯状の赤や青や白(イエローオーカーや緑も少し入っている)が画面を斜めに横切っているような抽象的なパターンで、描写はベルリンの壁と言われればそうとも感じられるという程度の暗示に留まっている。テーマや割合抑制された色調にもかかわらず、画面に重苦しさは全く無く、ある種の楽天性のようなものさえ感じられる。目の前に壁があるという現実の中を生きることの内にも、雨降る中に喜びを感じることと同質のものが潜んでいる。それは感覚の一定の部分が受動的であることと関わりがあるように思える。絵画が、人間の環世界(ユクスキュル)に適した形式である可能性。それは、絵画という形式が自明であるということを意味するのではなく、与えられた形式に対して人間の能動性がズレを孕ませたり、形式の上に乗るべき表象を動かしたりしているということ。

*1:初期のブリンキー・パレルモの作品に少し似た感覚を覚える。