福居伸宏展「ジャクスタポジション」 TKG Contemporary

 TKG Contemporaryで福居伸宏展「ジャクスタポジション」。夜間に撮影された都市の写真が、写真同士の間隔を無くして、長くパノラマ的に並べられている。民家やオフィスの窓、街灯などから発せられる人工的な光が丁寧に写し取られており、遠くの空が写された部分を見れば、ひとつひとつの弱い小さな光が束になって、ぼんやりとした大きな光に成長していることが確認される。写真の中に人の姿こそ見られないが、自然に反して人為的に構築された建築物や、数ある建物の窓にランダムに灯された光によって、そこには明らかに人間の存在を、それも永遠の闇に閉ざされたSF的な世界の中にではなく、再び太陽が昇るであろうことを静かな確信のうちに待ち望む彼らの存在を感知することができるだろう*1。夜の暗闇に明滅する人工的な光を、機器のうちに精妙に取り込む福居の技術は、都市の中で身の回りに満ち溢れた隣人たちを「彼ら」というどこかよそよそしい言葉によって呼びかけることを我々に可能にさせる。もう数時間もすれば、朝が巡ってくることは経験的に了解されている中で、一時的な夜の静止が複雑な光の合図によって仕掛けられている。その一瞬に、人はメタフィクショナルな想像力を沸き立たせる*2

*1:福居伸宏が光に対して持つ繊細な感受性からは、一日の仕事が終わり、身体が眠りにつく前に疲労の中で見出す優しい慰安のようなものが感じられる。

*2:福居の写真には、闇の中で静止した世界というフィクションが立ち上がるのと同時に、直ちにそれを否定して観るものを現実へと連れ戻すという循環が成立しているように見える。