池田満寿夫-知られざる全貌展 東京オペラシティアートギャラリー


 初期のキャンバスや、よく知られた版画の作品群は、さまざまな作家からの影響こそ感じられはしても、池田満寿夫自身が何をしたかったのかが上手く伝わってこない。晩年までは、ひたすら習作の時代であると考えたい。特筆すべきは、90年代以降の陶芸作品である。晩年の池田は、般若心経に傾倒し、分厚い陶土によって多くの仏像を作るようになる。特に仏像を作るためのモデルというものはなく、頭を真っ白にしてひたすら仏像を作り続けたようである。このような姿勢が良かったのか、仏像作品と前後して作られた、同じ陶土による抽象的な彫刻群に見るべきものが多かった。大きな陶土が力強く押しつぶされ、ひねられ、傷つけられ、やがて無垢でありながらも固有の性格をもった形が生まれてくる。それらは薄く釉がけされ、割れることも厭わず野焼きにされた。1993年の「裸形・茜城」などは、やり直しのきかない一回勝負の清々しさが作品に奇跡的な美しさを与えており、見飽きることがなかった。