和菓子

テレビで、伝統的な和菓子作りを過去に取材したものの、再放送をしていた。限られた素材の中から、システマティックに様々な形の菓子が出来てくる様子が面白い。餅を変形させる時の手の動かし方や、焼きごてや木型などの道具の使い方には、抑制された一定感が保持されているが、全てが同じ形になるわけではない。そこでは、完全な相似ではないが、同じものに見えるというあわいの領域の確定こそが目指されている。思えば、感覚器官によって、同じ種の動植物をそれぞれ特定出来るというのは、不思議なことである。和菓子には、花や鳥などの生き物を象ったものが多いが、和菓子作りにおいて、徹底した写実が追求されているわけではない。これは、実際の植物の様子を周到に観察して作られる、飾り菓子でも同様である。象られる牡丹と菓子との間には、明確な線引きがなされるほかないが、人が見ればそれとわかる。対象を描くという行為も、八割方はシステムに乗っているのである。作風が激しく変化する作家においても、手の動かし方、眼の動き、習得した技術によって作品が規定される領域は大きいはずだ。真実を描くというのはフィクションであって、物を見る行為と物語とは厳しく峻別されねばならない。形式化による作業量がある域値を超え出た時に、進化は起こる。