蟻が、身体の三倍以上はある、コーンフレークか枯葉の欠片のような物体を、せっせと運んでいる。群れから離れてたった一匹で、何を頼りに進んでいるのかこちらは見当もつかないが、蟻の方は確かな目的意識を持っているように感じられる。アスファルトの細かな凹凸を素早く見分けながら、縫うようにして、物体を頭の上に高く掲げて前に進んだり、後ろ向きになって引っ張ったりしながらジグザグに進んでゆく。動きは力強く機敏で、熟練の労働者が、重たい荷物を軽々と運んでいるようにも見える。夏の日射しを受けて、薄黄色に乾いた草むらの中に到達する。始めは要領を得ないで、草に荷物を取られて難儀そうであったが、しばらく荷物から離れて様子を見た後は、見違えるように動き出した。幾千本もある草の障害を、身体を回転させながら巧妙に回避し、息付く間もなく枯れ草のエリアを突破してゆく。それは、大気が通常の形態では、目的を達することが出来ないことから、姿を竜巻きに変えて、農作物や人家などの工業生産物を根こそぎ飲み込んでゆく状態をも想起させる。蟻はそのあと、コンクリートの排水溝を真直ぐに降り、荷物をつかまえたまま反対側の壁を斜にふらふらと登り、金網の向こうの、大地が広がるエリアへと意気盛んに進んでいった。