鬼塚良昭展

 日曜日に、中野の土日画廊で開催中の鬼塚良昭展-日々移ろう時空-を見に行った。鬼塚さんは、齢70になる宮崎在住の彫刻家だ。会場にいらっしゃった作家は年を重ねてますます意気軒高であり、頼もしい限りである。作品は素材に木材や石材を主に使っており、どの作品も素材との対話の中から、生命固有の形が彫り貫かれているように見える。彫刻家を芸術家である前に一労働者として位置付ける作家の言を裏付けるように、極めて実践的な不断の労働が、素材に徐々に働きかけ、それが哲学的な造形へと結晶してゆくのだ。以前宮崎のアトリエで見せて頂いた、丸太を二重螺旋状に彫り貫いた巨大な木彫群はそうした試みの集大成と言えるだろう。今回の個展会場には、場所の制約上その代表作は展示されていなかったものの、素材を石に転じた二重螺旋の小品は、凝縮された形態の中に静謐さと広がりを十二分に感じさせるものだった。まるで蛇羅尼経が納められた百万塔のように、螺旋が垂直に波動を描くような様が、小さいながらも宇宙的なスケールを感じさせるのである。他にも、木の年輪を生かした渦巻き状の巨大な眼のような作品や、結び合わされた紐状に形を彫り貫かれた作品が、コンセプトとしては日本の古代文学から受けた着想を思想的に練り上げたかのようであり、また造形は古拙でありながら清新な佇まいを見せており、異彩を放っていた。

 会場で夜開かれた宴では、作家のご友人達が持ち寄られた、季節の食材を使った料理に舌鼓を打ちながら、様々なお話を伺うことが出来た。話題は、日々の制作上の話から、美術教育の話、白川静熊谷守一を迂回して政治における非転向性の話題にまで及び、いつ果てるともしれない会話の渦が豪雨の下で広がってゆくのだった。


鬼塚良昭展-日々移ろう時空-
2005年9月18日(日)まで 12:00〜19:00 月〜水休廊
ART M.土日画廊
〒164-0002東京都中野区上高田3-15-2
TEL03-5343-1842
西武新宿線新井薬師前駅下車徒歩5分 JR、東西線中野駅北口から1番バスで新井薬師前駅下車