地方農村を貧困から救いたいという問題意識が、柳田国男の学問には存在した。東北の寒村で語り継がれる物語の中に、柳田が見出したのは、中央が信じ、自分たちに押し付けようとする神を、表向き受け入れるかにみせて、実は昔から身近に存在したカミこそを信じ続けるという抵抗の在り方の根拠であった。しかし、戦後に入り、経済成長により潤った中央から押し付けられたのは、交付金補助金であり、原発利権だった。農村は貧困からは抜け出したが、抵抗のための根拠の多くを失ったように見えた。同時に中央もまた、目的を失い、骨抜きにされ、いまでは自らが何をするべきなのかもわからなくなっている。半世紀を経て、結果的に中央と農村のうち、どちらが勝ったのかはわからない。そして、どちらの神によっても制御することのできない危険物は残った。